私たちは日々、外の世界に反応しながら生きています。
緊張、不安、焦り、考えすぎ。
そんな中で、ふと「自分らしさ」や「落ち着き」がどこかへ行ってしまったように感じる瞬間があるかもしれません。
でも実は、私たちの内側には、静かに調和し直す力がもともと備わっています。
それを思い出させてくれるのが、
「コヒーレンス(Coherence)」という概念です。

コヒーレンスとは、心拍、神経系、感情、脳の活動が調和し、一貫性をもって働いている状態を意味します。
これは一種の“生理的な整いの状態”であり、「テクニック」の名前ではありません。
もっとも特徴的なのは、心臓のリズム(心拍変動)が滑らかなサインカーブを描くように整っていること。
この状態では、
• 自律神経のバランスが取れている
• 感情が安定している
• 思考がクリアになり、判断力が高まっている
という、心と身体が一体として機能する自然な“最適モードが現れます。
私たちの心臓は、ただ血液を送るポンプではありません。
常に脳と双方向で情報をやり取りしている「感情的な臓器」でもあります。
心拍のパターンは、
• 脳の情動中枢(扁桃体)
• 意思決定や思考をつかさどる領域(前頭前皮質)
に影響を与えていることが、現代の神経科学で明らかになっています。
つまり、心拍が乱れると、感情も乱れる。
逆に、心拍が整うと、感情も整っていく。
その「整った状態」が、コヒーレンスなのです。
この理想的な状態は、偶然に訪れるものではありません。
私たちは意図的に整えることができるのです。
その手段のひとつが、呼吸を整えること。
たとえば:
• 一定のリズムでゆっくり呼吸する(例:5秒吸って5秒吐く)
• 呼吸に注意を向けることで、今この瞬間に戻る
• 緊張をほどくように息を吐き、内側にスペースを作る
これらのシンプルな実践が、心拍のリズムを穏やかにし、
結果としてコヒーレンス状態へと導いてくれます。
コヒーレンス状態にあるとき、私たちにはこんな変化が起こります:
• イライラや不安が静まり、感情が安定する
• 雑念が減り、集中力や記憶力が高まる
• 判断が冷静になり、視野が広がる
• 心がしなやかになり、人との関わりがやさしくなる
何かを足すのではなく、本来の自分のリズムに戻ることで、
すでにある力が自然と引き出されるのです。

“今ここ”に戻る力は、いつでも私たちの内側にあります。
静かに呼吸を感じてみる。
手を胸と下腹に当て、心臓の鼓動にそっと意識を向けてみる。
呼吸を感じてみる。
心と身体のリズムがつながり、自分の真ん中にある「今ここ」が見つかります。
コヒーレンスとは、自分を整えようとする努力ではなく
「整っている自分」に気づくことです。