
蝶形骨は、頭蓋骨の奥深くに位置する蝶のような形の骨です。
その翼のような広がりは、こめかみの奥から後頭部まで伸びていて
咀嚼に関わる筋肉や顎の関節につながり合っています。
顎や骨盤とは距離があるように思えますが、
身体の中では、膜や筋肉の連鎖を通して、しっかりとつながっています。
そしてこのつながりが、日常の動きや姿勢のクセのなかで、
呼吸の深さや顎の緊張、骨盤の安定感にまで影響していることがあるのです。
蝶形骨の下方には、左右に突き出した小さな出っ張りがあります。
これは翼状突起と呼ばれ、咀嚼筋である内側翼突筋・外側翼突筋などが付着しています。
これらの筋肉は、下顎を動かすために必要不可欠な存在。
ものを噛む、飲み込む、あくびをする、会話する。
そうした顎の動きの土台となる力が、蝶形骨のこの突起部分と深く関わっているのです。
この領域の筋緊張が強くなると、顎関節の動きが硬くなり、
食いしばりや歯ぎしりといったかたちで不調が表れることがあります。
そしてその緊張は、やがて首、肩、胸の奥へと広がっていくのです。
身体には、前後・左右・上下を結ぶ筋膜や筋肉の連鎖があります。
蝶形骨を起点とした頭の緊張は、顎や喉を経由して胸郭、横隔膜、腸腰筋、骨盤へと続いていきます。
たとえば、顎の片側にだけ緊張があると、
頭がわずかに傾いたり、頸椎が回旋したりして、
それが胸郭の高さの違いや、骨盤の位置のアンバランスとなって現れることがあります。
また、蝶形骨の回旋が強くなると、
足裏の重心が左右で変わったり、歩行のバランスに微妙なズレが出たりすることも。
骨自体を直接動かすことはできなくても、
こうした全身の動きの中に、その影響が静かに現れてくるのです。

蝶形骨は頭の中心にありながら、
仙骨とともに、身体の前後バランスを調整するような働きをしています。
ピラティスで「骨盤を立てる」「頭の位置を整える」という表現がよく使われますが、
それぞれが単独で動いているのではなく、
深層のつながりを通じて、互いに影響し合いながら動いています。
頭を持ち上げようとすると骨盤が後ろに倒れ、
骨盤を前に立てようとすると首の後ろが詰まってくる。
そう感じるときこそ、頭と骨盤の間にある深い軸が働いている証拠です。
蝶形骨と骨盤の連動は、呼吸にも影響します。
どちらか一方が固定されると、横隔膜の動きも制限され、
自然な呼吸がしにくくなることがあります。
食いしばりが治らない、呼吸が浅い、骨盤の安定感がない、
そんなとき、局所的なアプローチでは変化が見えにくいことがあります。
蝶形骨の状態は、普段意識されることはほとんどありませんが、
その動きや位置のバランスが変わると、
顎の緊張や骨盤の感覚にまで変化が及ぶことがあるのです。
この骨は、自分で触れることはできません。
でも、全身の使い方や感覚の変化を通して、
その状態にそっと気づいていくことは可能です。
顎の力が抜けてきたとき、
骨盤が自然に立ち、頭のてっぺんがすっと伸びるように感じられる。
そんな変化の裏には、蝶形骨を含む頭の奥の構造が働いているかもしれません。
レッスンや講座では、
こうした構造の連動や奥行きを体感として捉えながら、
解剖学と動きが結びつくような学びをお伝えしています。